最高裁判所第二小法廷 平成8年(オ)730号 判決 1996年6月17日
東京都荒川区荒川六丁目四七番一号
上告人
株式会社マグリーダ
右代表者代表取締役
森田玉男
右訴訟代理人弁護士
吉川彰伍
東京都足立区花畑二丁目九番一六号
被上告人
青木金属工業株式会社
右代表者代表取締役
青木善弘
右訴訟代理人弁護士
上村正二
石葉泰久
石川秀樹
田中愼一郎
右当事者間の東京高等裁判所平成二年(ネ)第一〇八六号実用新案権侵害差止等請求事件について、同裁判所が平成七年一二月二一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人吉川彰伍の上告理由について
所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 福田博 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一)
(平成八年(オ)第七三〇号 上告人 株式会社マグリーダ)
上告代理人吉川彰伍の上告理由
第一点 原判決の判断は理由に齟齬あるか、理由不備の違法がある。
一、上告人は、原審において被上告人の製品の製造販売は上告人の実用新案権を侵害するものであり、それによって上告人は損害を被ったのであるから、右損害賠償請求債権をもって被上告人の債権と対当額において相殺する旨の主張をしたが、原審は不法行為によって生じた債務を負担する者は、相手方たる債権者に対し不法行為によって生じた反対債権を有する場合にも相殺をもって対抗できないと判断した。
二、しかし、民法五〇九条により、不法行為による債権の相殺を禁止したのは、これを許すことが正義に合せず、もし相殺を許すときは不法行為を認容する結果となるからとされる。かかる弊害のない場合には、相殺を認めて然るべきである。
三、被上告人は、被上告人が被上告人の有する実用新案権の考案である鞄等の磁石錠の考案を有し、その考案は、永久磁石の磁力を最も有効に利用するように有効磁石のほとんど全部を吸着片に通過せしめ、強力な施錠作用を得るとの作用効果を奏するものであるとする。
しかし、被上告人の考案のみをもってしては、鞄等の磁石錠とはならず、上告人の考案にかかる係止装置を用いて始めて鞄等の磁石錠として完成するものである。
よって、被上告人の考案として製造販売した製品は全て上告人の考案を侵害したものである。
四、これを要するに、上告人及び被上告人双方の製品は、いずれも、互いに有する実用新案権を侵害するものである。
この点につき、原審は、この事実を看過し、上告人の上告人製品の製造販売と、被上告人の被上告人製品の製造販売が同一事実にないと判断した。
第二点 結論
以上に述べたところから明らかなとおり、本件上告人の主張を認めることによって民法五〇九条の弊害を生じることもなく、相殺を認めるべきである。
以上